お知らせ
2025/12/02
現場で語るホームステージングの真髄現場で語るホームステージングの真髄
“見せる力”で価値を生む——
ホームステージャー矢野万里絵が実践する、空間を変える仕事の流儀

空間は、家具が置かれた瞬間に“物語”を紡ぎはじめる。
その物語が人の心を動かし、住まいの価値を一段と引き上げる——。
ホームステージャー矢野 万里絵(やの まりえ)氏は、その“見せる力”を武器に、空室に未来の暮らしを立ち上げてきたプロフェッショナルだ。
白い壁、差し込む光、置かれた一脚の椅子。その一つひとつに、彼女の深い意図と観察が宿る。
インテリアが好きな人が抱く「空間を仕事にできたら」という憧れ。
その夢を、現実のキャリアとして形にしてきた矢野氏の歩みには、ホームステージングの本質と、プロとして生きるための視点が詰まっている。
今回は、矢野氏の実践に迫りながら、空間の価値を生む仕事とは何か。
そして、ホームステージャーとしてのキャリアはどこへ向かうのか。 その真髄に触れていく。
インテリアとの出会い――幼少期の原風景
インテリアに惹かれるようになった理由を尋ねると、矢野氏は「きっとね、そういう“血”なんです」と笑いながら語ってくれた。
両親が模様替え好きで、DIYが日常のように行われていた家庭。子どもの頃には祖父と製作した手作りのドールハウスを使って遊び、ファミリーパーティーでは、臨機応変にふすまをテーブルに仕立てることもあったという。
「 “空間を作る遊び”が当たり前のようにそばにあったんです。振り返ると、ステージングの原点は全部そこにある気がします。(矢野氏)」
大学ではマスコミ学を専攻し、“情報をどう切り取って表現するか”を学んだ。
その経験が、後のホームステージングで「空間をどう物語として表現するか」という視点に繋がっている。
木場の物件――真っ白な空間が投げかけた課題

今回取材したのは、江東区木場公園にほど近い物件。
3DKからリフォームされた室内は、壁から建具まで真っ白に統一されていた。
そして目の前には“ナイスビュー”と呼ぶべき眺望が広がる。
矢野氏は現地に立った瞬間、「ナチュラル系ではないな」と判断したという。
「白い世界観に木目を合わせると“優しい空間”にはなるんです。でも、この物件はもっと凛としていた。『スタイリッシュ』でいこう、とすぐに決めました。(矢野氏)」
ターゲット像は、30代バリキャリ。
仕事は充実していてプライベートでは自由を謳歌している、単身者またはDINKS。
物件オーナーが想定していたペルソナともぴたりと一致し、コンセプトの迷いはなかった。
プランニング――空間に“物語”を生むプロセス

ステージングは、家具を置く作業ではない。
矢野氏の話からは、“その人が住んだらどう暮らすか”を丁寧に描き出す行為であることがよくわかる。
●あえて選ぶ、セミダブルベッド
ダブルではなくセミダブルを置いた理由は、生活導線の確保と“余白の演出”。 「内見者の頭の中で“ダブルベッドも入るな”と自然に想像できる。その余白が大事なんです。(矢野氏)」
●玄関の“掴み”
オーダーに含まれていなかったが、急遽玄関横の飾り棚にもインテリアを設えた。
来訪者は「ドアを開けた瞬間で、心つかまれた」と感嘆したという。
●小物とグリーン――“大人の暮らし”を象徴する色
白×シルバーを基調に、軽やかなクリスタル素材を使い、日常生活像に少しの憧れを加味する。
甘くなりすぎない色合わせで、今回のターゲットの世界観を形にしていく。
グリーンは鮮やかではなく、意図的にくすみカラーを選ぶ。
「グリーンをフォーカルポイントにしたいので、最初に決めることもあります。(矢野氏)」
そのひとつひとつのセレクトに、プロ視線の鋭さがのぞく。
●“三角形”の構図
小物配置では、
・上から見た三角形(平面)
・正面から見た三角形(立面)
の2つを常に意識するという。
均等に並べてしまいがちな初心者との差が出る、この美学。
インテリア界隈では定番のメソッドではあるが、矢野氏の経験やセンスからくる絶妙なバランス感覚が、空間に動きと調和を生む。
現場で感じるステージングの力――空室に“手ごたえ”が宿るとき

ステージングを終えた部屋を見たオーナーは、何度もつぶやいた。
「これは来る。来るよ…」
オーナーにとっても、無機質だった空間が、誰かの暮らしを具体的に想像できる場所へと変わった瞬間だった。
クライアントの表情がフワッと輝く、その変化に立ち会えることが、この仕事の醍醐味だと矢野氏は微笑む。
実際に、物件の内覧を開始したのは2025年11月の金曜日。その週末に二組の見学があり、なんとそのうち一組から即申し込みが来た。
狙ったターゲットにしっかり届いていることが、結果として裏付けられたのだ。
物件オーナー・不動産関係者が実感する“成果”

不動産販売において、広告写真は検討者との最初の接点だ。
撮影時には家具や小物の配置を“写真で見て映える”ように微調整する。
「現場での見え方と写真に撮った時の見え方は違うことがある。撮影に立ち会って、空間と画角を最適化するのが大事なんです。(矢野氏)」
過去に民泊案件で、実際の演出に比べて写真が見劣りしてしまった経験から、ホームステージングから撮影までを通しで行うサービスを開始した。
昨今では、特にWEB上での画像そのものが、住宅では“内見数”を、民泊では“予約数”に大きなインパクトを与える。
プロとして外せない工程だ。
起業の原点と、認定講師としての想い
矢野氏のキャリアは、不動産管理業からはじまった。“空室物件で暮らし方の提案を見せればもっと稼働が上がるはず”と直感したのは、まだ「ホームステージング」という言葉すら知らない頃の話だ。
近隣のインテリアショップに頼み込んで、物件に設える家具を展示品として貸し出して欲しいと交渉した経験をもとに、「関西女性起業家プロジェクト(LED関西)」に応募。ファイナリストになれなかった悔しさから株式会社を設立し本格的に実業化した。
やがてホームステージャー認定資格と出会い、コンテスト入賞をきっかけに、メディアにも取り上げられ、事業が飛躍した。
現在、開業7年目。
認定講師としては、業界全体の成長を真剣に考えている。
「コンテストには絶対に挑戦した方がいいです。私自身、大きな転機になりました。(矢野氏)」その言葉には、自身の経験からくる強い確信があった。
おわりに――ホームステージングを“当たり前の文化”に
今回の物件では、空間の特徴を読み取り、想定する住まい手の姿を踏まえて演出を加えていくことで、無機質だった部屋に“暮らしの気配”が生まれた。
ホームステージングは、家具を並べるだけの作業ではない。
そこでどんな暮らしができるのかをわかりやすく示し、物件の魅力を引き出し伝えるための専門的な仕事である。
矢野氏は言う。
「いちホームステージャーとしても、協会講師としても、もっと多くの人に、ホームステージングの潜在力を伝えていきたい。ホームステージングが、日本で“当たり前”になる日を目指し貢献したいです。」
多様な現場での経験と確かな視点は、空間に息を吹き込み変化を生み出していく。
その積み重ねが、住まいとしての魅力を着実に高めている——。
-PROFILE-
矢野 万里絵 氏 (YANO Marie)
株式会社すまいごこち 代表取締役
一般社団法人日本ホームステージング協会 ホームステージャー2級認定講師
ホームステージャー1級/宅地建物取引士/マンション管理士/学芸員
略歴:
大手不動産会社にて、主に賃貸住宅をマネジメント。入居審査~契約管理~募集広告~仲介営業、 退去立合~原状回復及び再商品化企画(リノベーション)、未収金督促~法的措置~事故対応まで、あらゆる業務に精通する。
LED関西(関西女性起業家ビジネスプランコンテスト)セミファイナリスト。日本ホームステージング協会コンテストで3年連続表彰。全国賃貸住宅新聞「一工夫で大変身ホームステージング」連載執筆。
